「 丈夫、なのか… 」
04.2月
昔、私は丈夫じゃなかった。周囲も友人からも「しょっちゅう調子が悪いと言っている」と評判だった。そう、頭痛持ちで、歯茎はよく腫れ、喉はすぐ痛くなり、低血圧、貧血気味、冷え性、等と。「私、丈夫じゃないの…」と力無く言っていた私。
それが今では、――体力はあまりないのだが――、病気らしい病気はしない。時々胃の調子が悪くなるけれど、風邪もここ何年ずっとひいていない。あるママは「志咲さんは病気で休むことないわねー」。そうお店出演も、ここ何年も休んだことがない。カルチャーもまだ一度も病欠していないから「先生は風邪もひかず、丈夫ですねー」。だから“元気印”なんて言われると、昔あんなに憧れた言葉を言われて感無量だ。事実、頭
痛持ちは治ったし、低血圧、貧血、冷え性も、全部無くなった!。歌手活動を続けるのは苛酷だから、きっと心身共に鍛えられたんだ。或いは、更年期を過ぎてそれら全部が改善された…?。――私は今月又1つ齢を重ねるけれど、齢を重ねると“いいこと”もあるんですね。
歌手やミュージシャンは、昔はベテランも新人でも仕事が多くあったから、仕事納めを終えると「身の周りの普段あまりできないこともして、あとはのんびりしよう…」と思うと、1年間の疲れがどっと出るのかダウンして、寝込んだりして年末年始を過ごし、仕事始めに治る、ということがよくあった。「折角の休み期間なのに、悔しい!」。でも“アナを開けてはいけない”仕事柄、「私達って律儀にできてるんだ」と言い合ったものだ。けれど昨今は皆仕事が少なくなり、“年末年始はダウン”の話はあまり聞かない。私も、体調向上も相まって、ここずっとそういうこともなくなった。
その私が珍しく高熱を出した。
思えば、大晦日にも、お正月が終る頃も、「なんだか疲れたなぁ」と思っていた。あれは1月9日の夜、ベッドに入ったらすごくゾクゾクして震えが止らない、眠れない。明け方に暑くてたまらなくなったので、熱を計ったら8度5分!。それからの1週間、38度前後を行ったり来たりしていた。
夜中にわぁーっと汗をかき、ネマキも布団もぐっしょりで「私、オネショしちゃったみたい…」と言うと、夫は調べて「大丈夫、してないよ」(…いやん真面目に答えないでよ)。ネマキをたびたび替え、ぐっしょり布団は布団乾燥機で乾かしていた。もしやこの体温計が正しくないかと、家中の4本を代わる代わる脇の下に入れていたので、左の腕をつぼめる癖がついてしまった。
風邪の症状はまったくないのに、こんな高熱が出るなんて何かヘンな病気なのかと、4日目に何十年ぶりに病院に行った。自主的に「行く」と言ったから家族は驚いた。
初診なので用紙に書き込む、入院したこと「なし」、薬のアレルギー「なし」、その他も「なし」「なし」。診察した医師は「風邪のようではないですね。では血液検査をしましょう」。そして抗生物質などを処方された。
その1週間の間に、アシスタントが来た。ネマキにジャケットを着て椅子にデンと座りアレコレ指示する私に、「そんなに熱があるわりには平気ねぇ。熱に強いのかしら」って。夕食の準備ができるかと心配した彼女に「今日は久しぶりにトンカツにする予定だった」と言うと、「8度もある人がカツを揚げるのは無理じゃない?」と言ってくれたが、結局予定通りカツ3枚揚げ、他にも色々作り、私はカツをたいらげた。
その間、所属会の新年会もあり、熱冷ましを飲んで出席した。熱を心配してくれた友人達と、お刺身やお寿司をたんと食べた。さすがに二次会には行かなかったけれど。またその間、カルチャーの今年一回目があった。前日熱のことを知ったカルチャーから「休んでもいい。無理しないで」と言われたけれど、「みんなが待っているから、行きます!」と、熱冷ましを飲んで行った。授業途中で、「今度は皆様だけで唄いましょう。…私は熱を計ろう」と、みんなが唄っている間に脇の下に体温計を入れる。唄い終った皆「熱、どうでした?」「…今は7度5分だわ」、なんていう授業をした。
検査結果を聞きに行ったのは1週間目の熱が下がった日だった。でも、きっとどこかヘンなことになっている…と恐る恐る結果を聞くと、「検査結果はとてもいいんですよね」、へぇー?!。白血球、赤血球、血小板等々も、血糖値、コレステロール、中性脂肪等々も、いい数値なのだ。ついでに訊く「血は薄いんですか?」「いえ濃いほうです」、あら!。ばい菌もウィルスも入った形跡がないとか。…じゃあ何だったの?と思っていたら、「念のためインフルエンザの検査もしてみましょう」。結果はA型もB型もまったくなしだった。「熱も下がったようなので、残念ながらとりあえず判りません」と申しわけなさそうに言われた。「ストレスで、っていうこともありますか?」「それはありえます」。
保健衛生の仕事をしている人が言うには「高熱が出るということは、体力があるということですよ」。体力が弱ったお年寄りなどは肺炎になっても高熱が出ないそうだ。あらー、体力はないと思っていたのに。
結局原因は判らずじまいだった。判ったことは、この検査では健康体だということ。――そういえば、歌手としては致命的な、かねがね恐怖の花粉症に一昨年なりかかったけれど、その年だけだったみたい。
原因はストレスかも…と自己診断した。時々の胃潰瘍的な胃の不調もそうだが、歌手生活に伴うストレスに、家族に関するストレスも加わっている。高齢の夫のサポート、見かけは若くても老人状況がある母。隣の姉もこのところ精神的に高揚していて心配だ。
多分そんなこんなの疲れが出たのだろう。
私の整える食事が家族の健康を支えているから、献立とその味にも日々努力しているが、さまざまな食材も取り入れようと気を配っている。“食は体の基”だから。